電動アシスト式三輪自転車「Innovation Cycle / i trike/Innovation trike」にお乗りのオーナー様から、前後共ブレーキが効かないので改善できないか?とご相談を承りました。
当店、この車体は初見でしたが、ロット数やコスト制約もあってかパッと見た限り工業製品としての作り込みが甘く、幾何公差や部品同士の擦り合わせがイマイチな印象を受けました。ブレーキも調整レベルでは、改善は期待できず、ちゃんと走れるようにするには、費用を要することをお伝えして構想に着手しました。
標準では、制動力があまり期待できないワイヤー式ディスクブレーキを装備。特にリア側は、レバー操作の仕事をダブラーを介して左右2輪に分岐しており、車体重量/ホイール慣性(GD2)/電動アシストを考慮すると役不足。
改善策として、ローター大径化やキャリパのみ油圧方式のいわゆるセミ油圧も考えましたが、ワイヤ抵抗や制動力確保を考えると、やはりフル油圧に。ホース長が長くなるのでBH90ベースで構築、コストも考慮してDEORE系を選択。4ピストンキャリパも候補に挙がりましたが、マスタマージン確保とパッドの入手性を考慮してオーソドックスな2ピストンとしました。
リア側は、1つのレバーで2個のキャリパーを操作することになります。
産業機械のように作動油がポンプ圧送されているなら、単純にマニホールドで分岐すれば良いですが、レバー操作の場合はマスタ容量を2倍にする必要があり、おいそれとは行きません。
元はモータ制御の応答遅れを補うため、ブレーキレバー操作するとモータOFFする配線がありましたが、今回の油圧ブレーキ化で撤去することに。IOリストや回路図も無いので、テスターでa接/b接(=NO/NC)をチェック。必要に応じてジャンパーを掛ける感じです。
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標準装備のワイヤ式ディスクブレーキ・キャリパ 変則的な左右対称モデル |
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現地現物でCADにて図面作成 |
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ワンオフのキャリパーアダプタ 台座の幾何公差を考慮して調整代を設けました |
ここまでは割とスムーズに進行しましたが、リアディスクブレーキ・キャリパの取付けで頭を悩ますことに。左右対称のワイヤルーティングを確保するためか、元はアフターマーケットで殆ど流通していないシンメトリデザインのキャリパが採用されてました。
右側は標準的な組合せとなりますが、左側は一工夫を要します。フレーム台座の幾何公差がイマイチだったので、削り落として再溶接することも頭を過りましたが、熱歪とコストを考慮してアダプタ(=キャリパーサポート)製作で対応しました。ボルト引張方向に荷重が掛かりますが、現実的な落とし処かと。
今回に限らずキャリパ周りの設計する度に思うのですが、規定値が55.9mmや5.7mmとか端数ばかりでモヤモヤします。インチベースだったのか極座標からの落とし込みなのか理由は知りませんが…。
後輪軸は、デフ無し直結じゃ曲がれないのでは?と心配しましたが、左車輪は常時フリーで、BSCのフロンティアラクットワゴンと同じ構成です。但し、スイング機構はありません。
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改善前:干渉有り |
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改善後:クリアランス確保 |
フロント側ブレーキは、パーツ交換ですんなり完了と期待しましたが、ローター/ポストマウントアダプター/アウターチューブが干渉している状態だったので、まずは下地作りを済ませてから本作業を進めました。
パーツ換装後に動作確認しましたが、制動力は狙った通り確保でき、1レバー×2ピストン構成のリアブレーキもしっかりとしたレバータッチに仕上げることが出来ました。
※「Innovation Cycle/ i trike/Innovation trike」は、当店取り扱いは御座いません。
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