2021年3月18日木曜日

「中華パーツ」と「チェーンライン」と「Qファクター」と

自転車部品の多くは、他の工業製品と同様にMADE IN CHINAで支えられているのが現状ですが、 同じ中国で生産される「メーカー&ブランド品」といわゆる 「中華パーツ」の違いは何でしょうか?。

両者は一見同じ商品に見えても、素材/寸法&幾何公差/仕上げ/不良率などが異なりますが、一番の相違点は仕様や強度確保等の「構想&基本設計」がちゃんとされているか否かだと、店主は考えます。

先に断っておくと、店主は流通ルートを問わず作った工場&人が一番偉いと思ってます。なので、中華パーツを全否定しているのではなく、上手く付き合うには工学知識や目利きが必要になるかと。

また、レースやツーリング等でガッツリ走られるライダーさんには、耐久性や出先でのトラブルを避けるために、素直にメーカー品を使うことをお勧めしています。特に破損すると重大事故に直結しやすい、フロントホイール/フォーク/ハンドルは信頼性を重視すべきです。

その一方で中華パーツには、痒い所に手が届く便利な工具もあったりします。例えば、店主が10年前に作業性改善のために作った補助ツールは、現在流通するモノだと量産効果もあり低コストで導入できます。ただ、SST(スペシャル・サービス・ツール)の類は、全般的にNC加工がしやすいアルミ製がほとんどでプロユースには不向きです。
前置きはさておき、店主自身の自転車は神経質な取扱いを避けたい理由から、色気のない手堅い構成ばかりです。ただ偶に、出来心でリサーチを兼ねて中華パーツを試してみることがあります。

そんなこんなで今回は、「ROTOR 3D/Cannondale Hollowgram/SRAM DUB」の三体を悪魔合体させたようなクランクを取り寄せてみました。先に得られた情報だと、チェーンリングに52-36Tを纏った標準的ロード用な仕様。クランク本体は、ロングシャンクドリルで中空CNC加工され、キレイな仕上げで今っぽいデザインです。

開梱して早速、クランク・スピンドルの「68/73mm」コンパチ仕様の刻印で、ムムムと怪しい雲行きに。工場目線だと、MTBと共通化できてコスト削減できますが、73mm基準設計だと68mm対比で左右に2.5mmに広がったチェーンラインとQファクターになるからです。

DUB規格ぽいので取合いはSRAMコピーかと思いきやそうでも無く、当然マニュアルは付属しないので、仮組みで探りながらセットアップしてみると当初の懸念通り、SRAMのROAD-WIDEと似た広めなチェーンラインとQファクターの組み上がりに。ちなみに、DUB本家であるSRAMのスピンドル長は、フレームに規格に合わせて数種用意されてます。

結果的にこのクランクは、折りたたみ自転車のフロントW化やOLD142mmやモンスタークロスのようなバイクなら、チェーンラインがマッチしそうです。今回は、クラシカルなOLD130mmのバイクに組み込んだので、アウター×ローでバック踏みすると100%チェーンが外れます。

例えば、シマノ製HOLLOWTECH II・ロード向けクランクは、ITA70mmシェル幅を基準に作られ、BSA68mmは左右1mmずつ厚いアウトボードBBで帳尻合わせしています。ちなみにQファクターは、FC-7701以降は左右振分が同値になり合計146mmです。

新型のGRXは、OLD142mm想定&太いタイヤ対応と言うことで、チェーンラインが外側へオフセットされ、Qファクターも151mmに。余談ですが、カンパニョーロ・エカルは、フロントシングルのみだからか145.5mmのナロースタンスを維持しています。

 チェーンラインQファクター
DURA-ACE43.5146
GRX46.9151

勘の良い方だと、OLD142mm対応させるだけなら、Qファクターはそのままでスパイダーアームをオフセットさせて、チェーンラインだけ外に出せばと良いのでは思われるかもしれませんが、それだとFD外羽根とクランクアーム裏が干渉してしまいます。

あらためて見ると、R9100以降のシマノ・クランクは、旧チェーンラインを維持しながらリング形状を工夫して、何とかOLD142mmにも対応させているのが窺い知れます。

今回試した中華クランクを標準的なロード寸法へ収めるなら、BBのインナーカバーを5mmカットして、5mm短いスピンドルを探してくれば良いのですが、その労力と費用を考えたらメーカー品を購入したほうが経済的です。

もう一点、このクランクで気になったのは、アクシアル方向のベアリング予圧(=プリロード)調整方法です。現行メーカー品で用いられる調整機構は、下記3タイプに大別できます。

  1. HOLLOWTECH II
  2. プリロードダイアル
  3. ウェーブorエラストマ・ワッシャ

当初、本クランクは消去法でNo.3式かと思ってましたが、左右クランク軸にOリングが配置されている為、ウェーブワッシャを入れるとBBの防水性が損なわれます。結局のところ、スピンドル固定ボルトが予圧調整を兼ねるひと昔前の方式だったのですが、この設計だと部品点数は減らせますが、機械構造的にムリヤリ感が拭えません。

ここ数年、中華パーツ全般の質感や仕上げは飛躍的に向上しています。反面、目標価格あっての割切りとも言えますが、冒頭で記した「構想&基本設計」の詰めが甘いところは依然として残ってます。ただ、この面を改善しようとすると、高度なエンジニアリングや部品点数&種類を増やす必要があり、必然的にコストは上がって中華パーツの魅力が薄れてしまうのも事実です。

※取付&加工法や使用パーツ等のご質問は、当店ノウハウのため、お応えしかねますことをご了承ください。

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