2022年10月10日月曜日

都市部のモビリティ 自転車は生き残れるのか?

トヨタ・ウーブン・シティ/Woven City より

「自転車」は、巻き掛け伝動機構を備え、運動の第1法則(=慣性の法則)に沿った、高効率な移動手段です。また、電動アシスト自転車(≒E-Bike)は、アナログバイクが苦手とする漕出しや登坂時に動力補助することで、荷役や子乗せ等で自転車の活用域を拡げています。

その反面、「自動運転/CASE/MaaS/サブスクリプション」が柱になりそうな都市部の新しいモビリティ環境において、自転車は利用されなくなるのでは?と店主は予想しています。


A.未来の都市形態
都市部は高密度/高層化/テレワークが進み、日常生活は縦移動のみで成り立つ姿が見えだしており、横移動に用いる自転車は将来不要になるものと考えてます。具体的には、日用品は低層階のスーパーマーケットorコンビニ利用で済み、それ以外の殆どの買い物はECで完了の感じです。

たまの外出なら、自転車を保有するよりもMaaSやサブスクリプション等の自動運転TAXIや電動キックボードが合理的と言ったところ。米SFでは自動運転TAXIの公道試験が始まっており、国内でも有人かつ限定的ですがサブスクTAXIが展開されています。現在は、生活スキルの一つとして親が子に自転車の乗り方を教えますが、必要性が感じられなくなればそういう慣習も失われて縮小市場に。自転車も乗馬同様に、郊外の限られたエリア&人のアクティビティになる未来像が浮かびます。

B.自動運転カーとの共存
「モビリティ」という大きな括りで振り返ると、自動車関連メーカーが多く発表した「CES 2018」が分水嶺になるかと。豊田社長の「トヨタはモビリティカンパニーへと変革する」の言葉と共に同社は「e-Palette Concept」を発表。当時の報道資料は下記の通り。

2019春労使交渉でも触れられていますが、同社は法人事業部を2018年に設立したトヨタモビリティサービスへ移行しており、モビリティカンパニーへの道筋を徐々に進めています。無論、オウンドメディアにバイアスは付きものでしょうが。

さらに2020年、米ラスベガスで開催された「CES 2020」では、トヨタは具体化を進めて実験都市「Woven City/ウーブン・シティ」を発表。ノンビリと国に頼っていたら、取り残されると自腹投資で進めるプロジェクトにおける3種の道路区分に「自転車」の文字はありませんでした。

  1. 自動運転車やゼロエミッション車などが高速で走行する自動車専用道
  2. 低速で走行するパーソナルモビリティーと歩行者が混在する道
  3. 歩行者専用の道
TRI-ADが前身のWoven Planet Holdings/ウーブン・プラネット・ホールディングスの発表によると、上記3つに加えて物流ネットワーク用に地下に4つめの道が加わっています。

試行錯誤の中で進む、スマートシティ自動運転の実証実験。レベル4~5の自動運転カーは、2040年頃に普及すると予想されていますが、それを主体とする交通網を描くと、無尽蔵に20km/h以上で自由に動く自転車は非常に厄介な存在です。

もし、自転車を残すなら、位置関係をやり取りするビーコンの装着義務化が落とし処になりそう。ビーコン形式が、スマホ/GPSサイコン/AirTag系トラッカー等どのようなるかは見通せませんが。

自動運転レベル4の導入期は、東京都なら区画整理が進んでいる中央区/千代田区/湾岸エリア辺りを特区にして、ETC黎明期と同様のビーコン購入に補助金政策を打ち、徐々に環七→環八へとエリア拡大する流れになるかと。

ただ、自動運転カー側だけに危険回避する役目を持たせると自転車が無双になってしまうので、ABSを組合せた電子制御ブレーキを装備したE-Bikeが相応しい共存相手に。数年前に北米では完成車と部品メーカーがアライアンスを組んで、自動運転カーとの共存を図るプラットフォーム作りを進める動きがあったような記憶がします。

まあ、このような投資額や普及性を考えると、無理をして自転車を生き残らせるより電動キックボードやセニアカー延長上にあるe-パーソナルモビリティーへの切替えを促したほうが現実的に思えてきます。

C.パーソナルモビリティー/E-Bike 動向
2022年初頭、ポルシェはE-Bikeのエンジンメーカー「Fazua/ファズア」の株式を取得。更に、Pon Holdings/ポン・ホールディングス傘下で環境テクノロジー系VCの「Ponooc Investment/ポノック・インベスティメント」と提携も発表しました(関連記事)。

加えて2022年8月には、Ponoocと設立した2つの合弁会社「Porsche eBike Performance GmbH」と「P2 eBike GmbH - powered by Porsche」が動き出し、2020年代半ばに次世代の自社製E-Bikeを発売予定です(関連記事)。

ポルシェは2022後半のIPOにより、経営の独立性が高まる見込みですが、フォルクスワーゲングループ傘下ゆえ、「VW+PON」と最大手の企業体同士が手を組んだ構図と言えます。

一連の動きは、EU圏で普及してキャッチーなE-Bikeを切り口にしているものの、都市部の移動手段として、より広義なパーソナルモビリティーが有望なマーケットとして捉えている表れかと。

EUが政治戦略的に進めるEVシフトの波に乗って、VWは下記方針を謳っているので、電池リサイクル受け皿や生産スケールメリットを生かすには、PMVまで事業拡大する意義もあるのかもしれません。

EVシフトを進める自動車メーカー各社は、モータ&バッテリーの内製化を進めており、PMV量産への横展開も容易な下地が出来つつあるので、トヨタも同様の動きを見せる可能性があります。



D.日本国内のパーソナルモビリティ政策
国内におけるパーソナルモビリティ実証実験は、おおざっぱに下記3期に大別されます。

  • 第1期:セグウェイ
  • 第2期:超小型モビリティ(トヨタ、日産、ホンダ等)
  • 第3期:電動マイクロモビリティ(Luup・電動キックボード等)

電動キックスケーターが国内流通しだした数年前、業界筋の方から、この流れは必ず拡大すると伺っていました。されど、国の音頭で自動車メーカー各社がリソースを注ぎ込んだ第2期が、梯子を外された形で終焉を迎えたのを知っていたので、第3期もヤッテマスヨのポーズに過ぎないと店主は読み違いをしました。

高齢化が進む日本。特に公共交通機関が脆弱/高齢者の割合が多く/人口が少ない地方の生活の脚を如何に確保するかが急務です。コンパクトシティ化や自動運転カーが最終解なのでしょうが、それには20年以上掛かるので、つなぎの交通手段は必須。

今回は電動キックボードが手始めになっていますが、技術/価格の両面で短期間で実現できるPMVが求められます。車速と車重を小さくして運動エネルギーを抑え、万一の事故でも被害が少ない交通手段を確保するためです。自動ブレーキ搭載で自転車以上・軽自動車以下のような乗り物がイメージされます。

「高齢者向け」と付くサービスや商品だと、なかなかユーザーに受け入れられないので、若者含め皆が使っているPMVみたいな醸成を狙うはず。おそらく、LUUPファウンダーもその辺りを訴求してロビー活動したのだと推測されます。官公庁における方針変更の波にも上手く乗ったし、彼らはある段階でトヨタ等にエクジットして利益確定するのでしょう。

もしくは、サービスイン初期に起こりがちな事故やマナー等の諸問題によるブランド毀損を想定して、大手がVC経由で資金他のリソースを送り込んでいるのかもしれません。確かに安全性やヘルメット着用義務化も謡われていますが、それをしてしまうと普及に躓くのは目に見えているので、とにかく今は拡大フェーズと踏ん張って注力すべき。転倒や事故リスクと照らし合わせて、自己判断で被ってねで良いかと。


E.シェアサイクルの現状
インターネット・インフラの上に構築される「シェアリングエコノミー」。「シェアサイクル」もその一つですが、普段から街で使われる自転車の実情を知る身からすると、当初から補助金なしでは採算や車体整備の継続は困難と見ていました。国土交通省の「シェアサイクルの在り方検討委員会」でも揉まれていますが、海外でも進出&撤退を繰り返しているのが現状です。

VWのディーゼル不正に端を発した欧州のEVシフトのように、技術や合理性よりも政治情勢で左右される側面が否めず、潤沢なリソースを持つトヨタ自動車は、EV/HV/FCV/内燃機関/水素と「全方位戦略」で車体開発を進めています。

シェアサイクル事業も2010代前半は西東京エリアのディーラー1店舗のみでしたが、現在は傘下のトヨタモビリティサービスにて、ちかチャリで都下でレンタサイクル4拠点、シェアサイクル2拠点に拡げて試験運用をしています。また、トヨタファイナンシャルサービスのTOYOTA Walletが、自転車シェアリング『ドコモ・バイクシェア』と提携済みです。


F.道路行政
自転車用道路に関しては、「東京都⾃転⾞通⾏空間整備推進計画」「東京都自転車活用推進計画」「東京都の自転車通行空間整備」を読むと、他県と比較して具体案があり継続的に資金も投入されそうなので、自転車乗りは喜ばしい環境作りが進みそうです。他方で災害対応や新モビリティ時代も見据えた道路設計も求められるので、文字通りロードマップを定めるのは非常に難しいでしょう。

そんな技術革新が進んだ未来都市を思い描く一方で、日本国内は各省庁やメーカーの思惑や綱引きもあるのも事実です。それでも、2022年春に道交法改正案は可決して、2024年春には施行される予定と徐々にですが新しいモビリティ像が見えだしてます。

まあ、自動運転カー含めスマートシティは計画通りに進んでいないのも事実で、20年後も今とそう変わらない景色が広がっているかもしれません。そんなことを見通しながら、「どうして、自転車屋を営んでいるの?」と自己矛盾を抱える店主がここに居る訳ですが…。

ちなみに、当店が構えるさいたま市もスマートシティを美園地区で取り組んでいて、2022年10月からAI オンデマンド交通サービス実証運行も始まるようです。

お問合せは、info@avelotokyo.com または、070-5075-8192 まで。