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| New Shimano Dura-Ace R9300 FC-R9300 プロトタイプ Cyclingnews から |
直近の Vuelta a España 2026(ブエルタ・ア・エスパーニャ 2026) で公開されたプロトタイプの写真により、シマノの次期13速 Dura‑Ace(R9300系)の外観と技術的方向性がほぼ把握できたと言えるかと考えています。
ここ数年の流れから、「フロントダブル/シングルのコンパチブル設計」と「フルワイヤレス化」 といった大枠は既定路線。そのうえで、店主が数年前から技術的に注目していたポイントは、次の3点でした。
- ダイレクトマウント化と断面係数を稼ぐチェーンリング形状の両立
- フルワイヤレス化に伴うフロントディレイラーのバッテリー配置問題
- パワーメーターの配置方式
具体的には、
- リング根本を厚くして断面係数を確保する
- 内部を樹脂で充填し、共振・反響音を抑える(HOLLOWGLIDEの進化系)
- クランク接触面も厚肉化し、リング側とインロー構造で噛み合わせて剛性を稼ぐ
といった複合的な設計が採用されています。
1xとのコンパチブル仕様を成立させるには、チェーンリングのダイレクトマウント化は必然です。1xであれば、極端な大径リングでない限り、上記のような“分厚いアウターリング”は不要になります。
一方で、2×のアウターリングは高トルク変速に耐える必要があるため、どうしても構造が複雑化します。今回のプロトタイプを見る限り、正直なところ 「もうこの形にするしかないだろう」という、いささか力業でまとめた造形という印象が滲むのが正直なところ。
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| New Shimano Dura-Ace R9300 RD-R9350 2*13s プロトタイプ Cyclingnews から |
2.フルワイヤレス化に伴うフロントディレイラーのバッテリー配置問題
写真から判断すると、FDへのバッテリー直載せはワイド化したタイヤとのクリアランス確保が難しく、採用が見送られた可能性が高いと考えています。その結果として、
- 1x: RD にバッテリーを搭載する“完全ワイヤレス方式”
- 2x:従来の外部給電を踏襲する“セミワイヤレス方式”
という構成に落ち着いたのではないかと推測しています。経営判断としても、
- 1x: GRX「RD‑RX827」などと並行して新規設計を進め、ロード向けに軽量化やデザイン最適化を図る
- 2x:既存技術をベースに投資を抑える
という二本立ての開発体制が最も合理的だったと考えられます。
確かに、公開された 2x仕様のプロトタイプで配線が確認された瞬間、Amgen Tour of California 2014 で SRAM が初代 RED eTap を Bissell Development Team のバイクに搭載してテストした際、ワイヤレスであることを隠すために“ダミー配線”を装着していた逸話が頭をよぎりました。しかし、今回のケースについては、以下を理由に同様の偽装である可能性は極めて低いと判断しています。
例えば、XTR の E‑MTB 向け 有線式 RD‑M9260‑12/‑11L のように、ワイヤレス RD と基本設計を共通化しつつ、電源供給だけを「オンボード・BT‑DN320」と「ビルトイン・BT-DN300」でスイッチングしようとしても、両バッテリーの公称電圧が異なるため駆動系の共通化は成立しません。
ゆえに、新型ロード 13速シリーズでは、1x系は XTR M9200 系列(7.6V)を、2x系はロード Dura‑Ace R9200 系列(7.4V)をそれぞれ踏襲する構成になると考えられます。同じグループセット内であっても、ドライバ IC を含む電気駆動部は電圧仕様の違いにより別設計になると予想されます。
言い換えれば、「アーキテクチャは共通だが、電気設計は別物」という関係で、ちょうど GRX の RX827(1xフルワイヤレス)と RX825(2xセミワイヤレス)を、それぞれ 13速化したような立ち位置になると見ています。そして、次々世代の14速 R9400系は1x仕様のみとなる布石とも捉えられます。
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| New Shimano Dura-Ace R9300 ST-R9370 プロトタイプ クリック感UPのため3Dプリンタ製プレートを挿入することもあったサムボタンは配置変更 Cyclingnews から |
3.パワーメーターの配置方式
BikeRadar で取り上げられ、2025年9月頃から噂になっていた SPD‑SL の後継ペダル。2026年春の欧州クラシック「パリ〜ルーベ(Paris‑Roubaix)」では実戦でのフィールドテストが行われ、さらに Mathieu van der Poel の“アランベール事件”でその存在が露呈し、事態収拾のためにチームとシマノが共同声明を出す状況にまで発展しました。
アクシデントがあったものの、ビッグレースでアシスト選手ではなくエースの機材に投入されたという事実は、完成度が高く、市販化が近いことを示すものと受け止められました。一方で、シマノが長年強みとしてきた SPD‑SL プラットフォームを捨て、クリート規格そのものを変更してきた背景には、ペダル式パワーメーターの導入を見据えた判断ではないかと店主は考えていました。
ところが、冒頭の Vuelta a España 2026 で確認されたプロトタイプを見る限り、ひずみゲージ配置は従来の FC‑R9200‑P を引き継ぎ、クランクメインアームで検出する方式を採用しているようです。
シマノはカーボンクランクに関して、欧州限定で流通した FC‑7800‑C 以降は量産を行っておらず、消極的な姿勢は明白です。冷間鍛造は同社のアイデンティティであり、基幹技術を継承する意味合いも大きいため、店主としては以前から 新型 R9300 系もアルミ鍛造+中空構造で登場するだろうと睨んでいました。
ただ、ペダル型パワーメーターを採用しないのであれば、チェーンリングのダイレクトマウント化に合わせて、同社も業界の主流となった スパイダー型を導入するだろうと考えていました。しかし実際には、左右独立計測を重視したのか、従来どおりクランクメインアームでのセンシング方式を維持する模様です。
ちなみに、カーボンクランクの場合、メインアームにひずみゲージを貼ると、構造の複雑さ・異方性・製造ばらつき・温度応答の不均一性が複合的に影響し、再現性が低下します。この点は、かつてパイオニア社のエンジニアからも直接聞いたことがあります。
a. 異方性による応力分布の不均一 :カーボンは繊維方向によって剛性が大きく変わるため、同じ踏力でもアームの部位によって変形量が大きく異なります。アルミやスチールのような等方性材料では応力分布が比較的均一で、ひずみゲージの配置が安定します。
b. 積層構造の個体差(製造ばらつき):積層順序・樹脂量・繊維角度のわずかな違いで剛性が変わるため、同じモデルでも個体差が大きく、校正係数が安定しにくくなります。
c. 温度応答の複雑さ:金属は線膨張係数が一定ですが、カーボンは繊維方向で膨張率が異なり、温度変化によるゼロ点ドリフトが大きくなりがちです。温度補正アルゴリズムが複雑化し、誤差要因が増えます。
こうした理由から、近年のカーボンクランク普及に伴い、中華ブランドを含めパワーメーターのトレンドはスパイダー型へ収斂しています。
「プロトタイプはアルミだが、製品版はカーボンになるのでは?」と期待される方もいるかもしれません。しかし、カーボンクランクならパワーメーターはスパイダー型が必須であり、今回のプロトタイプのひずみゲージ配置を見る限り、製品版もアルミ製クランクを採用することを示唆しています。
私たちは十数年に一度、いわゆる“ゲームチェンジャー”や“パラダイムシフト”と呼ばれる技術革新に遭遇します。シマノ製品でいえば、SIS インデックスシフト、HG ギア、STI レバー、Di2 などがその代表例として思い浮かぶ方も多いでしょう。
しかし、その革新と革新の間には、100 を 101 に積み上げるような地道な改良の期間が続きます。もちろんその積み重ねも不可欠ですし、メーカーやエンジニアは先行開発で要素技術を蓄積し、トレンドを見据えながらそれらを組み合わせて商品価値を高めていくしか方法はありません。
今日の工業製品は成熟しており、そう頻繁にゲームチェンジャーが起こるわけではありません。ゆえに、革新の衝撃に慣れてしまったユーザーの関心を引きつけるため、売り手は差別化のために“その 1 の差分”を誇張し、プロモーション的に訴求せざるを得ないのも現実です。
自転車──とりわけスポーツバイクは、重量や空間的余裕の制約が極めて厳しく、追加装備による拡張性のハードルが高い分野です。ここ十数年で新たに一般化した架装といえば、GPSサイクルコンピューターとパワーメーター程度に限られます。
今回の R9300 系プロトタイプも、そうした「101 への積み上げ」の延長線上にある技術だと感じています。DM 化、2種のワイヤレス方式、パワーメーターの構成──いずれも劇的な変化ではなく、既存アーキテクチャを踏まえた最適化の結果として形づくられたものです。
それでも、こうした “静かな進化” の積み重ねこそが、次の大きな革新を支える土台になります。R9300 系がどこまで成熟し、どのような姿で市場に現れるのか。そして、その先に控えるであろう R9400 系が、再びパラダイムシフトをもたらすのか──。
技術の歩みを追いかける楽しみは、こうした「変わるもの」と「変わらないもの」の両方を見届けることにあるのだと思います。成熟した工業製品の世界では、劇的な革新よりも、静かに積み重ねられた改良の方が、後になって大きな意味を持つことが少なくありません。
R9300 系のプロトタイプが示した数々の“静かな変化”は、次の時代への布石として十分に興味深いものです。この先、どのような技術がどのタイミングで花開くのか──その過程を見守ること自体が、愛好家にとっての醍醐味なのではないでしょうか?。
※各パーツの詳細&セッティングに関するご質問は、当社ノウハウもございますのでご遠慮ください。


