2023年2月13日月曜日

GROWTAC EQUAL | グロータック イコール 手組用ディスクブレーキハブ

GROWTAC EQUAL | グロータック イコール 手組用ディスクブレーキハブ
「NOVATEC・ABG」や「Bitex・Anti-Bite Systems」同様
噛みつき防止プレート装備
フリーボディ:SRAM・XD & CAMPY も対応
3D-CAD 断面図(グロータックWEBサイトから)

店主、将棋は全く分からないのですが、「第72期王将戦」。藤井王将vs羽生九段の対局は、2勝2敗のタイとなり盛り上がりをみせておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

さて、「GROWTAC/グロータック」さんが、「EQUAL/イコール」ブランドで2023年春に発売を予定している「手組用ディスクブレーキハブ」。最初、WEBでサンプルを拝見したときは、お馴染み「NOVATEC」や「Bitex」標準品をカラーオーダーにしたものと思って、正直惹かれませんでした。

そんな新製品に俄然興味が湧いたキッカケは、なんと自社開発らしく、同社サイトに掲載されたハブ断面図にあった「ベアリング予圧システム」の文言。図を見る限り主軸キャップのねじ込みはドン突きなので、ウェーブワッシャーで内輪に予圧を掛ける構造なのかしら?と同社に確認したところ、その通りとのこと。本構造のメリットは3つが挙げられます。

  1. 鋼球&軌道面が摩耗しても、継続的に内輪へ予圧が掛かって「深溝玉軸受」を寿命まで使い切れる(=長寿命化)。
  2. ベアリング内部が摩耗しても、予圧機構がOLDに影響しないため、ホイールセンターやローター位置がズレない。
  3. ソリッドなカラーで両端の内輪を押さえると、ドロップアウト平行度/軸たわみの影響が懸念されるが、ウェーブワッシャなら押さえ力の均一化が期待できる。

MAVIC QRM AUTOと同様な仕組みですが、EQUALは3ポール式クラッチ採用で軸周りをシンプルにしてベアリングを大口径化、交換も容易になっているのが読み取れます。

EQUAL ハブは、クラッチ音等の派手さはありませんが、制約の中で理想を追求したらこういう形になるんだろうなと思わせる製品です。コンセプトの「使いやすいハブ」&「メンテナンス頻度はなるべく少ない方がいい。それでいてメンテナンスがしやすい方がいい」を体現してます。とりわけ、カートリッジベアリングの交換ならDIYでやれてしまうライダーにおススメです。

経験上、新興メーカーがハブを量産すると、幾何&寸法精度が心配になりますが、その点もOEM実績のある生産工場に委託されるらしいので安心かと。

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以下は、外装変速機用ハブに関して当店が考える脈略ない散文になります。

A.全体のデザイン
ハブを構想設計すると、特にリア側はスペース制約が多く、最小スプロケット径/フリーボディ径と外側から寸法制約が決まって行き、スルーアクスル(TA)径との引き算から構造を決める流れになりそう。
TA外径は、最小スプロケ径に制約されるので、最小歯数が12や13Tと昔のままなら、軸径はもっと太くできた可能性はあります。一方、フロントハブは、内側からの積上げで比較的自由に設計ができそうです。

B.基準面
無負荷時、ハブの主軸たわみはドロップアウトの平行度に影響されます。例えば、GOKISOは幾何公差吸収するため、主軸両端にスイベルワッシャを採用してます。TA化に伴って、RDハンガー&めねじ部がフローティング構造になったフレームも増えました。
これによりノンドライブ側のドロップアウトを基準面にして、TAを介してドライブ側も位置決めされることで軸たわみを抑制できます。ディスクブレーキ台座も同基準となり、直角度を確保しやすくなります。反面、BB軸と後輪軸の平行度は二の次に。

C.クラッチ
オーソドックスな「つめ車」式は、シール性が高く、汚れも外周部に押し出されやすい構造。また、万一異物が挟まってもすべての爪が同時に機能しなくなる可能性は低い。亜種なところだと、Sprag Clutchやサイレントクラッチ(=ローラークラッチ)なんかがあります。
最近増えた、モーターサイクルのラチェット スタータードライブに似た「DT Swiss・スターラチェット」や「シマノ・Direct Engagement」に代表される面接触型クラッチは、高伝達率の反面、メンテナンス回数増、異物が入ると機能不全に陥りやすい側面も。
また、クラッチ機構にスペースを取られることで、配置制約が生じてベアリングは小型化が必要に。面接触型ベースで性能を追及するなら、スプロケット+フリーボディ一体で削り出し締結部品を廃すことで、べアリング大径化やBB-M950やBB-7700で採用された複合形ニードルベアリングを内包する構造になるのでは?と予想します。

D.軸受(ベアリング)
多方向から荷重が掛かることから、スピンドル/ボールねじで多く用いられ、シマノやカンパニョーロ(ZONDA以上)も長らく採用するカップ&コーン(≒アンギュラ玉軸受)が理にかなっていると考えます。
ただ、軸受部を自社製にすると、製造装置/素材/表面処理/硬度etcの擦り合わせ技術が必要なので、そこを市販品で賄おうとしたのがカートリッジベアリング。その殆どは、ラジアル玉軸受の中でも流通量が多い「深溝玉軸受」が用いられてます。
走行時は、変速/駆動/車体倒しこみでアキシアル/ラジアル/ベンディング方向に荷重が掛かるので、「深溝玉軸受」だと役不足が否めないですが、現実はそれで運用できているし、ベアリング破損時も低コストでアッシー交換できるメリットもあります。

一般的工業用途だと、「深溝玉軸受」は予圧無しの「止め輪(=スナップリング)」で固定しますが、ハブに用いる場合は、多方向からの荷重/公差の吸収/内部摩耗に対応するため予圧を掛けます。予圧調整機構を仕込んだのは、MAVIC QRMが先駆者かと。
ただ、無負荷時はアキシアル荷重のみなので、内外輪の軌道溝の端面ギリギリに荷重が掛かるゆえ、蟠りは残ります。カートリッジ式でもアンギュラ玉軸受や複合形ニードルベアリングは存在しますが、価格/スペース/回転抵抗/重量がネックに。
話は脱線しますが、アウトボードBBでアンギュラベアリングを採用するのが、Wheels Manufacturing。下手にセラミック化するより、この方が機械的に正しいと思う訳です。

E.カートリッジベアリング・はめあい
ハブ荷重のかかり方だと、外輪&内輪ともに「しばりばめ」が適当ですが、ドロップアウト平行度のバラつき吸収を考えると、外輪:しばりばめ、内輪:中間ばめ、主軸-TA:すきまばめが現実的です。
最近は見かけなくなりましたが、ハウジング径が緩すぎて外輪が「すきまばめ」になっているモノもありました。ベアリング選定やハウジング設計に関しては、NSK/JTEKT(Koyo)/ミスミをご参考に。

F.手組ホイールのハブ事情
当店では耐久性を重視して、アンギュラ玉軸受を採用するシマノ製ハブを用いてホイールビルドすることが殆どです。ただ、近年のシマノ製ロード用ハブは選択肢が狭くなってます。MTB向けを流用しようにも、フロントφ15/BOOST(F110/R148)/マイクロスプラインゆえ互換性がありません。

そんな背景もあって、GROWTACさんの「Build your own bicycle.」と言う、選択肢をメーカー都合でなくライダー主体に取り戻すというポリシーは共感しますし、「手組用ディスクブレーキハブ」は大いに期待してます。

そんな同社商品ですが、全てを手放しで万人にお勧めしてはおりません。例えば、機械式ディスクブレーキ。着目点や思想は理解できますが、悪条件下でもエンデュランスに走るけどステア慣性を抑えたいライダーには、制動力/ロバスト性を踏まえて、当店では「油圧+Di2」をお勧めしてます。

ワイヤ駆動である限り、仕事は「引き量×力」で規定されます。GROWTACさんもそんなの百も承知で、その中で可能な限り機械損失の低減を図ってます。店主自身も1990年代にMTB機械式ディスクブレーキで、ケーブル損失を抑えるためアウターをステンレスパイプに変えたり試行錯誤したことがありますが、油圧式には敵わないと諦めた経緯があります。

30年程を経て、現代のワイヤ式ディスクブレーキは改良されましたが、ガッツリ走るライダーだとワイヤプル+油圧キャリパが妥協点なんじゃないかなとも。

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多分に余談を挟みましたが、開発投資&在庫リスクを冒してマスプロメーカーを起業、事業拡大されているGROWTACさんには敬服するばかりですし、新製品の「EQUAL 手組用ディスクブレーキハブ」は、良さそうだぞというお話でした。

※各パーツの詳細&セッティングに関するご質問は、当社ノウハウもございますのでご遠慮ください。

お問合せは、info@avelotokyo.com または、070-5075-8192 まで。