2025年12月9日火曜日

Voluptas | ウォルプタース カンチ台座・Vブレーキ仕様 オリジナル スチール オールロードバイク 試作 フレームビルド偏

カンチ台座・Vブレーキ オリジナル スチール オールロードバイク
プロトタイプ フレームビルド

以前のポスト「Vブレーキ・オールロードバイクを構想設計する 徒然なるままに ロード用 ディスクブレーキの今後の動向を考える その13」で触れた通り、小物やアイレット位置も含めて作図を済ませ。彼是30年来のお付き合いになるライジンワークスさんへ出図して、ジオメトリ自由度が高い「ラグレス+ろう付け(フィレット)」で試作フレームを製作を依頼しました。

今回の「Voluptas | ウォルプタース」オールロードフレームは、大雑把に言えばカンチブレーキ時代のシクロクロスバイクをベースにBBハイトを低めにした、全体的にオーソドックスな構成。ただ、52/36tのロードチェーンリングと40cタイヤに対応させたいので、チェーンステーの逃がしの加工が難しいところ。 

油圧ディスクブレーキ+電動シフト+ワイドタイヤが標準になった現代のロードバイクは、制動力や走破性が向上して快適な乗り物へと進化しています。一方で、トークリアランスを確保するためにフロントセンターが伸びたりと、ホイールベースが長くなる傾向があります。

その結果、特に身長170cm以下のライダーでは、リムブレーキバイクと比べてダンシングやスプリント時に「バイクが懐に収まる感覚」が薄れ、「乗せられている」印象を受けることがあります。プロトタイプの目的は、ホイールベースを詰めた効果と、つま先とタイヤの干渉が許容できるかの見定めが挙げられます。

44mm HT

ヘッドチューブは、一般的なオーバーサイズ(OS)を選択した方が、見た目や前後の剛性バランスがとりやすく、ヘッドセット選択肢も広がります。また、東京サンエスさんのカンチ台座付カーボンフォークを選ぶ際もオフセットが45/48/52mmでラインナップされていて、自然なジオメトリでフレーム設計が可能になります。

ただ、カンチブレーキ台座が付いたフロントフォークの場合、大抵が肩下長が396mm前後と一般的なロード用と比べて約30mm長くなります。結果的にスタックが高くなり、フレームサイズが小さい場合、サドル~ハンドル高低差を確保するにはヘッドチューブ(HT)を短くするしかありません。

そんなこんなで、短いHTと肩下の長いフロントフォークの組み合わせの不利な条件下で、少しでも剛性を確保するために44mmHTを選択しています。

後発であるディスクブレーキ仕様のオールロードやグラベルバイク用のフロントフォークも当初は、肩下が長めなモデルしか無かったのですが、技術進化でクラウン部が薄くなりスタックハイトを抑えられるようになりましたが、需要がないカンチ台座仕様で新モデル投入は期待薄です。

細かい話になりますが、アウトボード仕様のヘッドセットを前提にする場合。下ワンのスタックハイトを考慮しないと、ヘッドアングルは設計値からズレてしまいます。まあ、カーボンフォークの寸法公差は広めなので、過度に神経質になっても仕方ないのですが。

剛性や44mmHTとの溶接性を考慮すると、前三角はオーバーサイズチューブを用いるのが妥当ですが、重量を出来るだけ抑えるためにノーマルサイズを選択しています。

カンチブレーキ台座 / OLD130mm

どうせなら、モンスタークロスのようにもっと太いタイヤも入るようにすれば?と思われるかもしれませんが、ミニVブレーキのアーチワイヤ干渉を考えると38~40C(≒1.5インチ)あたりが現実的です。

リアのOLDは、130/135mm兼用にするために132.5mm幅も検討しましたが、ホイールセンターを確保するのが難しくなります。また、多段とシングルの両方に対応するスライダー式ドロップアウトは多用途に対応できる反面、位置が一元的に決まらない構造は運用上のストレスになるため、シンプルなOLD130mmのストレート・ドロップアウトエンドを採用しています。

背後には製作中のCRUMBWORKSさん CHUNKが覗けます

ライドフィールは、タイヤ&ホイールの影響が大きく占めるというのは理解していますが、BB高さの設計値で下記のような特徴が挙げられます。

BBハイト高め(BBドロップ小さい)
  • 漕ぎ出しが軽く、ストップ&ゴーや速度変化に対応しやすい
  • 少ない荷重移動でバイク姿勢をコントロールできる
  • 地面~ペダルクリアランス広い

BBハイト低め(BBドロップ大きい)
  • 漕ぎ出しは、もっさり傾向
  • 低重心で巡行しやすく、高速域で伸びやすい
  • 足付きしやすい
  • 微々たるものだが、前輪とのトークリアランスを稼げる
BBドロップに関して、当店の基本設計値は、リムブレーキロードバイクで700*25Cホイールなら65m、700*35cを想定した今回のオールロードで75mmを用いています。一見、BB位置が下がったように思えますが、地面からのBBハイトは270mmで変わっていません。

経験上、ねじれ剛性が稼げるスルーアクスルや反発が速いハイモジュラスカーボンだと、そこから5mm下げると近い感覚が得られるものと捉えています。

ちなみに、今どきのスルーアクスルバイク仕様のエンデュランスロードバイクのBBドロップは75~80mmが標準的です。重心位置だけでなく、スタンドオーバーハイトも考慮する必要があり、何を優先にするかでその値は変わります。

タイヤ&チェーンリングのクリアランス確認

太いタイヤとチェーンリング両側のクリアランスを稼ぐため、BBはT47 Internal 86.5mmの採用も検討しました。最終的にステーのベンド処理でかわせそうとのことで、入手性も考慮してオーソドックスなBSA/68mmに。

余談になりますが、BB周りの剛性はチェーンステー接合部の断面積が支配的と捉えています。故に、外径が大きいだけのT47 Outboard 68mmは導入メリットが殆どないかと。

また、クリアランス確保のためにチェーンステーのBB接続部をプレート形状にするフレームも目にしますが、断面係数を考えてパイプ形状を維持して仕上げて頂きました。短いリアセンターも譲れなかったので、加工可否の擦り合わせが必要でした。

そして、ワイヤルーティングは「エアロなんて糞喰らえ」とばかりにシフト/ブレーキ共に「フルアウター外装」にしているので、ライダー自身によるメンテナンスも容易です。


主な仕様
1.メインパイプ:KAISEI/カイセイ 8630R ノーマルサイズ
2.ヘッドチューブ:44mm
3.ブレーキ仕様:前後カンチ(ミニV想定)
4.ボトルケージ:ダウンチューブ/シートチューブ合計2か所
5.リアOLD:130mm/ストレートドロップエンド
6.FD:バンド固定(シマノダイレクトルーティング想定)
7.ワイヤルーティング:シフト/ブレーキ共にフルアウター外装
8.ステーブリッジ:チェーン&シート共にあり、シート側はR処理
9.シートポスト径:φ27.2
10.シートクランプ:バンド式φ31.8
11.BB:BSA/JIS 68mm
12.BB下面:水抜きキリ穴+ワイヤ受けタップ穴
13.基準タイヤサイズ:700*35C(最大幅700*40mm)
14.最大チェーンリングサイズ:52/36t

ロードバイクのディスクブレーキへの移行が始まって10年程が経ちました。現在では、Ritchey/ONE BY ESU/Fairlight Cyclesなどが魅力的なマスプロモデルを輩出してますが、スチール/チタン/ステンレスを用いてディスクブレーキバイクを生産すると、設計自由度の狭さから剛性バランスどりが難しく、重量増も立ちはだかります。

今回の「カンチ台座・Vブレーキ仕様 オリジナル スチール オールロードバイク」は、ちょっと旧いお持ちのロードバイクからパーツを移植できて乗り出せて、輪行含めて細かいことに気を遣わず、ピチピチジャージから普段着まで様になる一台を狙っています。


※各パーツの詳細&セッティングに関するご質問は、当社ノウハウもございますのでご遠慮ください。

当店の完成車&ホイールの在庫リストは、https://www.avelotokyo.com/p/sale_11.htmlをご覧ください。

お問合せは、info@avelotokyo.com または、070-5075-8192 まで。