2023年5月11日木曜日

闇雲にワイドタイヤ対応できないフレーム設計 徒然なるままに ロード用 ディスクブレーキの今後の動向を考える その8

ロードバイク ジオメトリ考察

元来、小柄な日本人には700Cホイールは大きすぎるというのは、リムブレーキ時代から知られており、ザックリ言うと身長163cm/股下73cm/ホリゾンタル480mm以下なら、650Cホイールのほうが、理想的なフレームジオメトリが確保できます。その辺りに着目したマスプロモデルとして、tokyobikeやTern Rojiが挙げられます。

その一方、650Cはタイヤ&リム等の選択肢が少なく、また、走破性や転がり抵抗は車輪径が大きいほうが有利と言った面もあり、市場にあるロードバイクの殆どが700C規格を採用してます。

さて、ディスクブレーキ化された現代のロードバイク。リムブレーキ時代にあったキャリパブレーキのクリアランス制約から解き放たれたこともあって、2020年ごろからワイドタイヤ化が進みました。

振り返ると、リムブレーキ時代はスチール→アルミ→カーボンのフレーム素材遷移に沿って、タイヤ幅は19~21→23→25mmと10年刻みで徐々に変化して来ました。ただ、ここ2~3年でスルーアクスルによるフレームねじれ剛性UP/ワイドリム化の背景もあって、28~32mmと一気に加速。

それなら、大は小を兼ねて、ワイドタイヤが入るロードバイクに一本化すれば良いんじゃないの?思われるかもしれませんが、闇雲にできない理由があるのです。分かりやすいのが、チェーンステー周りの「リアタイヤ/リング/FD」スペース取り合いで、タイヤクリアランスを大きくすると、チェーンリングサイズに制約が生まれます。

180cm超のライダーだと、フレーム設計に自由度があるのでワイドタイヤ化による影響は軽微ですが、175cm以下だと理想的なジオメトリ確保が難しくなって、165cm以下になると顕著になります。まあ、いざ乗ってしまえば、慣れの範疇ではありますが…。

リーチ(P)やスタック(O)と言った指標もありますが、今回は分かりやすくするため、それらには触れずに話を進めます。


1.長くなるトップチューブとホイールベース
ハンドルを切った際に「爪先-前輪の干渉」回避するのがトークリアランスです。タイヤ外径(Q)に着目すると、700×25Cだとφ670、35Cはφ690ゆえ、フロントセンター(I)を10mm弱伸ばす必要があります。

ヘッド角やフォークオフセットで稼ぐにも限度があるので、トップチューブ(B)を伸ばしてフロントセンターを確保する流れに。言わずもがなハンドルは遠くなるので、短めなステムorリーチのハンドルで合わせるしか無いのですが、そうするとハンドリングに変化が生じます。

また、ワイドタイヤ対応でリアセンターも自ずと延長されるので、総和のホイールベースは伸びて旋回性が損なわれます。リアセンターを維持しながら、ワイドタイヤを収めるには「出っ張りが少ない電動FDのみ or フロントシングル」となり、結果的に29er・MTB同様の落としどころになってしまいます。


2.高くなるハンドル位置 & 強まるスローピング
想定タイヤが25→30Cへの変化に伴って、BBドロップ(K)は65~70mm→70~75mmと大きくなり、後ろ側の地上高(L)を保つよう設計されてます。

一方の前側。大径化したタイヤ(Q)+伸びたフォーク肩下長(R)の積み上げで、ハンドル高さは2~3cm上がります。ハンドル高さは、前下がりステム等で何とか帳尻を合わせることができます。ただ、トップチューブ前側の高さは上がったままです。

リムブレーキ時代にクラウンにあったブレーキ固定穴が無くなったので、タイヤ幅30mmぐらいまでなら、フォーク肩下長は足し引きゼロで旧来同等に収まりますが、それを超えると必然的に肩下は伸ばすことに。それじゃ、伸びたフォーク長さ分をヘッドチューブ(G)で短くすれば、帳尻が合うんじゃない?と思われるかもしれませんが、小さめなフレームのヘッドチューブは必要長まで詰められており、削りしろがありません。

大径化で先行したMTBは、幾つかの課題解決のためインテグラル・ヘッドセットを採用した経緯がありますが、ロードバイクも既に同規格へ移行済でワン高さ分は消化済み。Topstone Carbonのようにトップチューブとダウンチューブを前部で連結、ボックス化して断面係数を稼ぐ手もありますが、見た目がMTB寄りになります。

リムブレーキと異なり、フォーク先端にブレーキキャリパが備わるディスクブレーキはモーメントが大きくなります。接合するトップ&ダウンチューブ外径や応力分散、強度&剛性を考えると、ヘッドチューブ長は100mm程度必要に。加えて、身長が高い=フレームサイズが大きくなると想定体重も増えます。運動エネルギーは体重に比例するので、フロントフォークに掛かる荷重も大きくなり、必要なベアリング間距離に応じてヘッドチューブは長くなります。
SuperSix EVO:公称最大タイヤ幅30C


Synapse Carbon:公称最大タイヤ幅35C

つらつらと書きましたが、トップチューブのヘッドチューブ接合部の位置が高くなることで障害になるのが、「スタンドオーバーハイト(F)」です。少なくとも股下から-2~3cmが設計指標になりますが、それを確保するには、シートチューブを短く&スローピング角度を大きくして逃がすしかありません。

この辺りが、Cannondaleの48~54で「SuperSix EVO」と「Synapse Carbon」同サイズ比較で、シートチューブ(A)が3cm短くなる理由です。Synapse Carbonを選ばれる際で、サイズ境界で悩まれる場合。グラベル用途/ワイドタイヤ装着/股下確保/懐に収まる感を大事にされる方は、推奨サイズを。シートポストの出量を抑えたい方は、それらに多少目をつぶって、リーチを勘案しながら大きめのサイズを選ぶ感じになるかと。

グラベル&ロードバイクの一部は、最適なジオメトリ確保のため650B規格を採用しておりますが、冒頭と同じ理由で700Cに再統一されると考えます。また、「長めなフロントセンター/ショートステム/寝かせたヘッドアングルを組み合わせたスラック・ジオメトリ」に移行した現代MTB同様に、ロードバイクもワイドタイヤに最適化された形へ徐々に変わっていくものと推察されます。

ロード用 ディスクブレーキの今後の動向を考える 過去ポスト
その1
その2
その3
その4

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