2024年6月5日水曜日

「現代日本の自転車産業と社会 ―新たな価値創造を目指して―」 読んでみて

現代日本の自転車産業と社会 ―新たな価値創造を目指して―

同業者だと読まれた方も多いかもしれませんが、同友館から刊行された「現代日本の自転車産業と社会 ―新たな価値創造を目指して―」。自転車業界の本で、こうしたアカデミアな著作は珍しいかと。

店主は、35年間程この業界を見たり携わってきましたが、自身の肌感とそう言った方々の調査/分析/知見が重なっていて、やっぱそうだよなと行き詰まりを再認識させる読感でした。

「うちの会社」や「業界」と一括りにすることで、諦めや思考停止になりがちゆえ戒めねばなりませんが、日本における社会問題の根本が「少子化」にあるように、流通/小売/整備が主の国内自転車業界に漂う閉塞感は、下記一文に集約されるかと。

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また、自転車産業が発展するには、その主体たる人材の確保・育成が必要となる。そのためには、何よりも業界がそこで働く人々にとって魅力的でなければならず、労働環境がより改善され、働く人々の成長・発展につながるような仕組みが必要となろう。
自転車業界の中心となっている販売業の場合、その平均年収、平均年齢は全国平均よりも低く、働く個人の自転車への思いに依存している部分が小さくない。自転車への思いは業界で働くうえでの必要条件であることは間違いないが、現状では労働環境面で、働く場としての魅力がまだ十分あるとは必ずしも判断できない。(同書抜粋)
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店主が雇用と拡大路線を諦めたのは、この道筋が見いだせなかったのが理由。行先が怪しい自分のバスに乗せる自信が持てなかったのです。一方で、下記にあるような業界最後の望みである電動アシスト自転車は、子乗せや軽快車マーケットでは拡大が進みましたが、スポーツ用E-Bikeは、欧州のような拡がりを見せていないのが現状です。

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同時に、電動アシスト自転車は、一度乗ったらその快適性からアシストなし には戻れない性質をもち、「実用用途」、「余暇用途」双方で新たな需要を生み出しつつある。自転車業界には、製品の魅力を向上させるこうした特長や変化 を踏まえつつ、「手軽な」移動手段から「快適な」「楽しむ」移動手段としての自転車の価値をいかにして訴求していくかが問われる。(同書抜粋)
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本書は、「一般財団法人 自転車産業振興協会」の後援を受けているので、バイアスを考慮すべきですが、要約版がWEBで読めますので、興味のある方は一読してみては如何でしょうか?。

さて、同書を読んでいて思い起こしたのは、故「瀧本哲史」著の「僕は君たちに武器を配りたい」です。どの会社/業界でも、程度は違えど同じ傾向と思いますが、日本の自転車業界に従事するのは、自身も含めて下記の「トレーダー」と「エキスパート」が殆どかと。

【瀧本哲史・再掲】「努力が報われること」は絶対にやってはいけない」から

「そして、実は、給与もその他の待遇も本人のスキルよりも所属している会社がどんな業界構造かによって決まっています。(出典:【瀧本哲史・再掲】超一流人材の発掘は、大学からでは遅すぎる)」

一部を除き、自転車業界全般は認められる経済価値が低く、利益を確保できない側面もあって、すでに同氏が説いた「コモディティ」化が進んで、中にいる人たちは買い叩かれてしまう状況になって久しいかと。

「そもそも、あらゆる分野で上位1%の人ですら生き残れない可能性があるなかで、好きでもないことで勝負したところで、とても勝てません。まずは、そのことが好きで才能があり、努力し続けることが前提で、さらに運にも恵まれなければ勝てません。それ以外は自動的に負けなんですよ。その意味で、一般に、自分の好きなことを仕事にできるのは良いことだと思われていますが「好きなことをやらないと最初から負けている」という、ディストピアのような世界が現実です。(出典:【瀧本哲史・再掲】超一流人材の発掘は、大学からでは遅すぎる)」

良い人材がこの業界に入ってきてくれるのは望ましいですが、資本主義の中では、個人が「自己価値の最大化」を追求するのは至極当然と店主は考えます。生物同様に、産業&事業も新陳代謝は付き物です。過去のポストでも触れましたが、優秀で向上心がある人は適切なフィールドを選ぶことも重要かと。

※取付&加工法や使用パーツ等のご質問は、当店ノウハウのため、お応えしかねますことをご了承ください。

お問合せは、info@avelotokyo.com または、070-5075-8192 まで。