2024年10月21日月曜日

SCHWALBE Radial carcass & Souplesse construction | シュワルベ ラジアルカーカス & スープレス構造 自転車用ラジアルタイヤの構造を考える

Schwalbe Albert Gravity Pro / シュワルベ アルバート グラビティ プロ
Radial carcass / ラジアルカーカス
左からAlbert Gravity Pro/Albert Gravity Pro Rear/同 Front 
ラジアル構造 PLY角度 90度に近い鈍角
ラジアル構造 PLY角度 90度に近い鈍角
他社 一般的なバイアス構造 PLY角度 45度
他社 一般的なバイアス構造 PLY角度 45度


先日、PRインターナショナルさんの展示会に伺って、気になっていた「ラジアル構造のSchwalbe Albert Gravity Pro」のサンプルを拝見してきました。

台北サイクルショー 2024」でも触れましたが、自転車に限らず「空気入りタイヤ」は、数値化しやすい転がり抵抗含めて、各メーカーにおいて細かい改善や組合わせ変更等の努力がされているものの、性能面でサチっているのが現状です。

自転車用もご多分に漏れず、技術面で手詰まり感が否めず、おそらく化学素材メーカーが提案する添加剤頼みになっていているかと。更なる性能向上を求めるなら、技術及び設備投資のハードルは高いですが、構造面でのブレークスルーが不可避です。


そんな中、2024夏に突如発表されたのが「SCHWALBE/シュワルベ」の「THE RADIAL REVOLUTION」。海外メディアを斜め読みした限り、自動車やモーターサイクルで用いられる一般的な「ラジアルタイヤ」とは、下記の点で構造が異なります。
  1. カーカス(=PLY/ケーシング)角度が、回転方向に対して直角ではない
  2. トレッドゴム-カーカスの間に、形状保持するためのベルトがない
Schwalbe Radial Construction
Pinkbikeより

言い換えればバイアスタイヤの亜種とも捉えられ、店主は勝手に「セミ・ラジアル」と呼んでいますが、同社狙いは、転がり抵抗低減ではなく、網目を大きくして柔軟性を高めることす。これにより接地面積UP、グリップや快適性を稼げますが、一般的なラジアルタイヤのメリットとは真逆になります。

また、PLY角度を完全な直角にしないことで、ベルトレスを維持して重量増を避けています。尚、同社はその角度は明確にしておらず「鈍角」の表現に留めてます。

参照WEBサイト
Schwalbe Radial Constructionのカットサンプルは無かったので、部材配置は不明ですが、おそらく従来MTBタイヤを踏襲しているものと推測されます。PLY角度の変更は、主に前工程・カレンダー裁断工程のカッター&アンビル周りの改造が必要です。従来比、加硫時にタイヤが太るのでプロセスも見直されているかと。





自転車タイヤの製造工程は、上記Youtubeをご覧頂ければ分かりやすいかと。改めて見返してみると、成型機のドラム/フィンガー形状/ステッチャー有無など三者三様で興味深いです。余談ですが、Continentalの自転車向けハイエンドタイヤは、一時は閉鎖寸前まで追い込まれた過去があるドイツ北西部のKorbach工場で継続生産されています。同社は、産機部門「Continental Molds and Machinery(CMM)」を傘下に有し、近年はモールドを手掛けるVÚKEMT Puchovを買収してますが、見る限り自転車用タイヤの成型機&加硫機は、HERBERT製を用いているようです。

閑話休題。今回発表された「セミ・ラジアル」構造のタイヤは、MTB/グラベル用途だとメリットが生きますが、転がり抵抗が重視されるロード用タイヤには不向きです。ただ、ここで思いつくのが、同社が2019年に発表して、Schwalbe Pro One Tubeless等に採用済の「Souplesse construction(=現・Super Race carcass)」との組み合わせです。
Souplesse construction(=現・Super Race carcass)
Schwalbe Pro One Tubeless等に採用済

部材配置的には、「Souplesse construction(スープレス構造)」の方がよっぽどラジアルタイヤに近いと店主は捉えてます。従来の自転車用バイアスタイヤは、カーカスをオーバーラップさせる3~4PLY構造が一般的。それに対してSouplesse constructionは、ラジアルタイヤの成型方法に似たターンアップ構造。従来と異なりセンター部分でカーカスを重ねない2PLYにしたことで、柔軟性とRR低減を図っています。

ゆえに発表当時、Bikerumor!等で本構造を見たとき、PLY引き抜けない?、トレッド端がセパしないの?と不安視しました。リムとタイヤのワイド化に伴い、タイヤ空気圧は低圧化が進んだこともあり、目立った問題は出ていないようです。

本構造は、PLY-トレッド間の青レイヤー(カーカス&スキム)を使い分けるだけで、「TLR(チューブレスレディ)」と「Tubed」を同プロセスで製造できるメリットも挙げられます。もしかしたら、ビード素材も変えているかもしれません。赤レイヤーはビード保護と密閉性を高めるチェーファーかと。

Schwalbe Pro One 部材配置図

転がり抵抗(RR)低減のみに注力するならば、トレッドゴムを薄くするのが効果的です。また、トレッド直下のPLY枚数を減らすことも摩擦低減に寄与します。相反するパンクリスクは、チューブレスレディが標準になったことで、シーラントで補完できるという設計思想の遷移も背景に挙げられます。

この2PLY構造ですが、部材配置やターンアップの向きに差異はあるものの、ContinentalやVittoriaも同様に採用を始めてます。自動車のラジアルタイヤでは、トレッドゴム直下のベルトにRR低減効果も挙げられますが、Corsa PRO Speedがベルト(≒ブレーカー)を廃していることから、現時点の自転車タイヤではそれは期待できません。

Vittoria CORSA PRO SPEED
トレッドゴムの薄さが際立つカットサンプル

Vittoria Corsa PRO Speed Tubeless-ready
Vittoria本国サイトより


Continental Grand Prix 5000 S TR
2PLY×110TPI=220TPI ケース構造
ミズタニ自転車サイトより

「Continental Grand Prix 5000 S TR」は、トレッド下は2層220TPI、サイドカット耐性強化のためサイドウォールのみ1層加えた3層330TPI。なお、「TubedのGrand Prix 5000」は、従来通りの3PLY×110TPI=330TPIのケース構造を踏襲してます。

さて、長々と書きましたが、店主が想像する将来の「自転車用ラジアルタイヤ」は、Souplesse constructionのカーカスを鈍角仕様に置き換えて、今よりちょっと丈夫なベルトでそれらを補強するイメージです。

バイアス45度、ラジアル90度の先入観に縛られていると、ラジアルタイヤは重く強固なベルトでカーカスを拘束する必要があります。鈍角カーカスとの組み合わせならば、そこまで堅牢なベルトは不要なのではと考えるのです。勿論、カーカスの素材やTPIの最適化も併せて必要になりますが…。

ここまで考えると、「CushCore/クッシュコア」に代表されるタイヤインサートをインナーライナー面に貼り付けて、ランフラットかつ補強材の一部にすれば良いんじゃない?とスケベ心も芽生えます。ただ、そこまで手を広げるとリムプロファイル含めたプラットフォーム更新が視野に。

一方、ちゃぶ台返し的な新しいプラットフォームを導入となると、既存のマーケットに浸透させるのは、火を見るより明らかに困難。ならば、車体全体の転換期が好機と捉えられ、2040年頃に訪れるだろうパーソナルモビリティ(E-PMV)に移行期がターゲットになりますが、俯瞰すると「空気入り」タイヤに拘る理由はなく、現実解はAirFreeのようなエアレス・タイヤに行き着くオチが待っているのです。

※取付&加工法や使用パーツ等のご質問は、当店ノウハウのため、お応えしかねますことをご了承ください。

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