2026年7月25日土曜日

Avinox MG Concept / Gobao Xシリーズ (X1/X1P) モーター&ギアボックス一体化 e-CVT ドライブシステム 揺らぐシマノ・SRAMの優位性と迫りくるゲームチェンジの展望 / BOSCH Hub Line から垣間見える戦略転換 / EUROBIKE 2026

Avinox MG Concept
モーター&ギアボックス一体化 e-CVT ドライブシステム

2026年6月下旬に開催されたEUROBIKE 2026で最も注目を集めたのは、DJI傘下の Avinox「MG Concept」 と、Gobao「Xシリーズ(X1/X1P)」 の2つと言えます。いずれも中国本土のメーカーであり、両社がそろって 「モーター&ギアボックス一体型の e-CVT ドライブシステム」 を発表したことは、業界にとって大きな出来事でした。

Avinoxは、2年前のEUROBIKE 2024で初代ユニットとなる Avinox Drive System M1 を発表し、業界を騒然とさせました。その後、E-MTBユニット市場で先行していたBOSCHやシマノから着実にシェアを奪い続け、サプライヤを一社に絞るリスクを負いながらもAvinox専用採用 を掲げるE-MTBブランドも徐々に増加しています。

これまでAvinoxは、EUROBIKEでは完成車ブランド AMFLOW PL との共同出展、かつ屋外の DEMO AREAのみ の参加でした。しかし2026年は、初めて屋内ブースを大規模に展開。しかも、従来BOSCHが構えていた展示エリアに、ライバルである Gobaoと向かい合う配置 で出展するという、象徴的なレイアウトとなりました。

さらにAvinoxは、2026年4月に新型ユニット M2S/M2 を発表したばかりで、それらを搭載した新型E-MTBは今夏から流通が始まるというタイミングです。通常であれば、買い控えを避けるためにも、試作段階である MG Concept の公開はもっと後にすべきです。

にもかかわらず今回発表に踏み切ったのは、先行するGobao Xシリーズの発表を事前に察知し、大手E-BIKEメーカーとの協業やFOX社との接続性を公開することで、自社優位性をアピールする狙いがあったのかと。Gobaoは、Avinoxからエンジニアを引き抜いているとも報じられており、両社の競争激化が伺えます。

特に DJI 社は、プロモーションを含むマーケティング戦略が非常に巧みで、EUROBIKE 2026 の開催前日に、一定の影響力があり、かつ行儀のよい限られたメディアだけに取材を許可し、情報を一斉公開することで、注目度を大きく高めることに成功しました。

一方、Gobao Xシリーズは、Radiate Engineering & Design 設計のフレームに搭載した車体でメディアによる試走が可能で、レビュー記事も公開できる段階に入っています。こうした状況を見る限り、量産化のタイミングは Avinox よりも早く進む可能性が高そうです。

Avinox M2S / MG Concept サイズ比較
減速機一体型なのにコンパクトなフットプリント
ebike_mtb インスタグラムより

ギアボックス一体化CVTのコンセプト自体は、決して新しいものではありません。E-BIKEが普及し始めた頃から、BEVのeAxle と同様の発想は店主含め多くの技術者が抱いており、国内メーカーではジヤトコ/JATCOが取り組んでいることでも知られています。

しかし今回の Avinox と Gobao は、2モーター式を導入することで、従来のコーン式 CVT が抱えていた欠点を解消し、これらの技術を予想以上にコンパクトかつ高い完成度でまとめ上げました。しかも、想定より早いタイミングで市場投入を進めている点が、業界に強い衝撃を与えたのです。両者ともに先行するOwuru Gearboxよりも高い出力や広いギアレシオを有します。

この方式には、以下のような物理的メリットがあります。
  • バネ下重量の低減
  • マスの集中化による運動性能向上
一方で、外装チェーン駆動と比べると、
  • 伝達効率が低い
  • 重量が増える
  • 破損・損耗時は、ユニットごとアッシー交換になる
といったデメリットも存在します。

現在主流の「チェーン + 外装変速機」は、軽量で伝達効率が高いことが最大の強みです。e‑CVTはこの点で劣るものの、両社が誇る最新のモーターアシストの大出力によって効率低下が事実上相殺されるため、実用上は大きな問題になりにくい側面もあります。

さらに、前述した マスの集中化 と バネ下重量の低減 は、E‑MTB の運動性能を向上させる明確なメリットとして評価できます。気になるコスト面についても、Alex Bike Tester / Gobao X1P E‑CVT Motor Unit First Look によれば、従来のドライブトレーンと比較して 約30%ほど圧縮できる可能性があると触れられています。

Avinox M2S カットモデル
同社インスタグラムより

完成車メーカーの視点では、共通フレームを用いて設計・製造し、仕向け国や市場に応じて クランク周りのユニットだけを差し替える ことで、以下の3形態を同一規格で展開できる点が最大の利点となります。
  • E-BIKE(モーター + ギアボックス)
  • ペダルバイク(ギアボックスのみ)
  • ペダルレス電動モーターサイクル(≒特定小型原動機付自転車)
この「共通フレーム+ユニット差し替え」方式は、車種ごとのサイクルタイムを均一化して混流生産を容易にし、製造効率の向上、在庫管理の簡素化、さらには国別規制への柔軟な対応を可能にする仕組みであり、メーカーにとって極めて大きな価値を持ちます。

これまでAvinoxはスポーティーなE-MTB向けにのみユニットを供給してきましたが、今回の発表ではコミューターやカーゴバイクへの展開にも言及しています。展示された29インチホイールのE-MTBを見る限りリアスプロケットサイズが大きいことから、M2Sをベースとした余裕のあるモーター出力を背景にしたハイギアードな特性が伺え、カーゴバイクなどの小径車でも仕様を変えることなくそのままで対応出来そうです。

またMid-Drive 方式でありながら、回生機能の搭載にも含みを持たせている点は、今後の製品展開を占ううえで興味深いポイントです。

Gobao Xシリーズ (X1/X1P) 
モーター出力や減速比等の諸元に関しては、MG conceptと同等

自転車業界では、シマノは長年「自転車業界のインテル」と称されてきました。E‑BIKEのモーターユニットは、PCで言えば GPU に相当する領域であり、同社はこの分野で劣勢でも、変速機やブレーキなど周辺コンポーネントの圧倒的シェアによって市場支配力を維持してきました。

しかし、今回 DJI が発表したような モーター+ギアボックス一体型のドライブユニットが市場に出回り始めると、状況は一変する可能性があります。Apple が M1 チップで PC市場の構造を変え、NVIDIA が GPU からコンピューティング全体を支配するようになったのと同じく、従来のドライブトレーン市場が根本から書き換えられる未来が覗けてきます。

先述の通り、ギアボックス一体型ユニットは以前から予想されていたものの、
  • 完成度が高く、コンパクト
  • 量産化までのスピードが速い
  • AVINOX と Gobao の2社が同時に投入してきた
という点が、シマノや SRAM が長年築いてきた優位性を揺るがす“現実的な脅威”として浮上しています。かつて CPU で主導権を握っていた Intel/AMD の世界に、NVIDIA が突如として覇権を握った構図と重なって見えるのです。

Avinox と Gobao の e‑CVT ユニットは、2027〜2028年頃のデリバリー初期は E‑MTB の上位モデルが中心でしょう。しかし、コミューター/カーゴバイク等の普及価格帯のE‑BIKEまで採用が広がった場合、従来のチェーン+外装変速機を中心としたシマノのビジネスモデルは 致命的な打撃を受ける可能性があります。

店主が意外に感じたのは、Avinox MG Concept や Gobao Xシリーズが発表されたにもかかわらず、東証7309や米国ADRの SMNNY の株価が反応しなかった点です。機関投資家が「シマノも同様の技術をすでに準備済み」と把握しているのか、あるいは「影響を受ける市場は限定的」と判断しているのか、その理由は分かりません。単純に悪材料を出尽くしていて、これ以上下がらないだけなのかもしれません。
BOSCH Hub Line BDU306Y

一方、E-BIKEユニットのリーディングカンパニーである BOSCH は、2026年から EUROBIKE への出展を見合わせました。代わりに、同ショーの開催時期に合わせて新型リアハブモーター 「Hub Line」を発表し、独自のプライベートショーも開催しています。

これは都市型・軽量 E-BIKE 市場への本格参入を意味し、Mahle X20(1.39 kg)など軽量ハブモーター勢への対抗商品と位置づけられます。これまでミドル〜トップグレード向けにMid-Drive 一辺倒だった同社の戦略転換としても注目されます。

Hub Line はトルクセンサーを搭載しないため、Mid-Driveのような応答性の高い細やかな制御は望みにくくなります。しかしその一方で、クランク周りは従来のペダルバイクと同様に 非常にすっきりした外観 を獲得でき、車体コストの抑制にも寄与します。

また、eShift に対応しており、シマノ Di2 や TRP EASI のディレイラーシステムと連携することで 自動変速が可能 になっており、エンドユーザーに分かりやすい価値を提供しています。



さて、そんな感じで e‑CVT に始まり e‑CVT で終わった感のある今年の EUROBIKE 2026。厳しい言い方をするならば、それ以外に目玉がなかったとも言えます。店主は昨年の EUROBIKE 2025 を訪問しましたが、その開催期間中にはすでに、翌 2026 年はシマノなど大手企業が参加を見合わせるという情報が流れていました。

EUROBIKE 2026 開催前、窮地に立たされた主催の Fairnamic 社は集客を確保するため、我々のような小売店向けの優遇措置を追加で発表。それなら、航空券が安く確保できればワンチャン訪独しようとギリギリまで考えていましたが、結局店主も断念することに。

シマノは 2026 年1月時点で Eurobike への出展を正式に見送ると発表しました。しかし、その後、運営側が行政や関連企業に働きかけた結果、土壇場の 4 月になって出展へ方針転換することに。最終的な判断は 後述するPaul Langeではなく、Shimano Europe B.V. が下したようですが、風聞では日本本社は最後まで出展に慎重だったとも言われています。なお、今回は屋外のテストライドエリアのみの展開で、店主が調べた限りでは、このブースの状況についてメディアは取り上げていません。


Eurobike をめぐっては、単純な出展企業の方針や費用対効果だけでなく、関連団体の思惑や政治的な駆け引きも絡み、全体としてかなり香ばしい状況になっています。長年、同ショーのシマノブース運営は、シマノのドイツ総代理店である Paul Lange 社が担ってきました。

ややこしいのは、Paul Lange 社の代表取締役が ZIV の理事を兼任しており、同氏がシマノおよび ZIV の Eurobike からの離脱を主導したとされている点です。また、Shimano Holdings Germany GmbH は 2026年1月に Paul Lange 社へ 14.9% の出資を行っており、この資本関係の変化が今回の一連の動きに影響を与えた可能性もあります。

EUROBIKE 2027はテコ入れ策として、開催時期を9月へ戻すことや、B2Bに特化した構成へ移行する方針を発表しています。加えて2027 年の開催を最後に2年周期のイベントへ移行し、2028 年は休止となることも公表されています。

一方で、ZIV と VZF は 2027 年以降、「Towards Tomorrow – European Bike Show」というライバルショーを計画しています。このショーはケルンメッセで行われ、Eurobike の開催日(2027 年 9 月 1〜4 日)の直後となる 2027 年 9 月 6〜8 日 に開催される予定です。こうした動きもあり、業界関係者の間では「2027 年以降、Eurobike の開催自体が継続されるかは不透明」との声が増えているのも事実です。


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