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「Kingpin Suspension」を有する Cannondale Topstone Carbon |
2024年5月をもって幕を閉じた自転車ウェブメディア「La route」さん。その中の「ピーター・デンクとプロフォーマットと本田さんのニシキ」を読んで、ディスクブレーキ&スルーアクスルが標準規格になった現代ロードバイクのフレーム設計思想を考えてみようかと。
上記ポストは、バイシクルクラブ初代編集長の故・佐藤晴男氏が執筆された1991年の同誌記事、「走る自転車 走らない自転車」の紹介から始まります。
- ウィップをなくせば(剛性を上げれば)パワーロスは防げるが、人間が踏み負けてしまう。
- ウィップは必要だが、BB部の変形は後輪に舵角を付けてしまい、無視できない走行抵抗を生む。
「後ろを引きずるような印象のフレームは、踏み込んだときに後輪に舵角が付き、後輪の転がり抵抗が増大しているからではないか」…と言った内容で、ニシキ・エレベーテッドチェーンステーやアンカー・プロフォーマットを引き合いに出されて安井氏が考察されてます。
1.エレベーテッドチェーンステー
チェーンジャムを防ぐために、1989年前後にRichard Cunninghamが発案したエレベーテッドチェーンステー。一世を風靡したこのフレームデザインに関しては、こちらのnoteに遷移が記されています。
チェーンジャムを防ぐために、1989年前後にRichard Cunninghamが発案したエレベーテッドチェーンステー。一世を風靡したこのフレームデザインに関しては、こちらのnoteに遷移が記されています。
自身の経験だと、当時のエレベーテッドチェーンステーを採用したMTBには、激しい走りをするとBB-リアホイール軸が捻じれて、勝手に変速&チェーンが外れてしまう車体があったと記憶してます。
リア・トラスが小さいので相応の横変位が考えられますが、相対的に縦変位が大きいことで本ポストで言われる進む感触が得られているかと想像します。もしかしたら、現代規格のスルーアクスルなら、捻じれが抑制されて丁度いい塩梅になっているのかもしれません。
2.PROFORMAT
MY2010前後のロードバイクは、タイヤ幅が23-25mmでエアボリュームが少ないこともあって、「Cervelo R3」の「スーパースリムシートステー」に代表されるような、チェーン&シートステーのリア三角を縦方向にたわませることで振動吸収性を狙った定番の設計思想でした。
Cerveloのエンジニアは、シートステーは強度部品としては殆ど意味をなさないと述べていたし、店主がFelt創業者のJim Feltと話したときも同様な考えでした。旧くは、「Ritchey Plexus」のソフトテールから続く流れとも言えます。
ただ、リア三角のしなりを狙うと、不要な横変位も生まれます。各社はそれを抑え込めようと「BMC granfondo GF01」のようにBB周りのボリュームを増やしたり、カーボンレイアップで工夫を重ねてきました。
Bridgestone ANCHORが「PROFORMAT/プロフォーマット」を発表した際、その言葉があまりに概念的でフワッとしていて解せなかった店主は、もう少し踏み込んで伺いました。その時の話で「PROFORMAT」は、「チェーンステー変形による後輪の舵角が走行抵抗を生む」に着目しながら、車体全体で「走る自転車」を追求。驚かされたのは、先述した定番思想と異なるアプローチだったことです。
3.Kingpin Suspension等のシートチューブ・コンプライアンス機構
近年のCannondale・ロードバイク、「SuperSix EVO/CAAD13/Synapse/Topstone」が走行性能と快適性を両立させていることで高い評価を得ています。
近年のCannondale・ロードバイク、「SuperSix EVO/CAAD13/Synapse/Topstone」が走行性能と快適性を両立させていることで高い評価を得ています。
共通しているのは、「シートチューブ」を意図的にたわませる「コンプライアンス」機構で、分かりやすいのが「Topstone Carbon」の「Kingpin Suspension」です。元は空力改善が謳われ、現代のロードバイクで多く採用される「ドロップシートステー」ですが、その形状を利用してシートチューブを「く」の字にたわませるアイデアです。
意図的に屈曲点を設けて、横方向ではなく縦方向にたわませることで、「PROFORMAT」同様に後輪舵角を抑えていると推測されます。やり方は違えど、TREKの「IsoSpeed/IsoFlow」も同じ狙いかと。
リムブレーキ&クイックレバー固定時代のロードバイクは、タイヤのエアボリュームが少なく、フレームと車軸の拘束条件が曖昧だった背景もあり、車体全体で振動吸収やトラクションを稼ぐ職人的な設計だったと言えます。
ディスクブレーキ&スルーアクスル導入後、リム&タイヤ共にワイド化が進んだ足回り。路面から受ける衝撃吸収は、ホイールが大半を担う形になって役割分担が明確に。定常状態におけるフレームのウィップは、クルマで言うサスペンションでは無くて、エンジンマウント(=ラバーブッシュ)みたいな役割で、適切な逃がしを設けることで快適性や出力を安定させる役割と捉えられます。言い換えると、ライダー出力軸とドライブトレーン間をつなぐ「カップリング(軸接手)」と似た、ミスアライメントや振動を吸収する役目です。
話を「シートチューブ・コンプライアンス機構」戻して、まとめると。従来設計でリア三角を縦方向にたわまようとすると、色々工夫しても横方向の変位が避けられない。それじゃと、スルーアクスル化も踏まえてリア三角は剛体へ、シートチューブをたわませるデザインを採用に。結果的に佐藤晴男氏が唱えた「しなやかで、かつ後輪舵角が付きにくい自転車」が、「気持ちよく、かつよく走る自転車」を体現できているのが、現代ロードバイクなのではないでしょうか。
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